読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

たごもりすメモ

コードとかその他の話とか。

他人より優秀でありたい自分にとって大切なことのすべて:読書感想文「シークレット・レース」

「シークレット・レース」という本がある。日本語で文庫で読める。本当にすばらしい本だ。自転車ロードレースが題材のノンフィクションだが、自転車を趣味にしていなくても、おそらく物凄く楽しめると思う。

自転車で走っていて、あるいはちょっとした坂を登っていて、自分が苦しんでいる脇を涼しい顔で追い抜いていくサイクリストに出会ったことはないだろうか。自分が踏むペダルはこんなにも重く、自分の息はこんなにも荒いのに、その彼、あるいは彼女は息も乱さず、軽々とペダルを踏んで軽快に登っていく。そんな経験はないだろうか。

何か彼はズルをしているんだ。彼の自転車は普通ないくらい軽いギアがついているとか、彼の自転車がありえないほど高級品だとか、彼の周りだけ重力が弱いんだとか。

あるいは、彼がなにか、特別な薬を飲んでいて、そのおかげなんだとか。

もちろん彼の自転車が電動アシストだからなのかもしれない。けど、笑っちゃいけないが、自転車のプロスポーツの世界にはモータードーピングなんて言葉だってある。思わず笑えるけど本当に一時期は大騒ぎになるくらい取り沙汰されたんだ。プロ選手が自分の自転車にこっそりバッテリーとモーターを仕込んでバレないと思うなんて、そんなことがあるか。

でもそのくらい真剣に、誰もが、自分が苦しいときに隣で平然としている人間に対して絶望感を覚える。自転車でも、その他のスポーツでも、あるいはスポーツ以外の何でも、そうだろう。自分が優秀でありたいと思えば思うほど。自分がこれだけ苦しんでいるのに、こんなにも努力しているのに、他の人々が楽々と自分を上回る、その絶望の深さを知る。

この本は2012年11月、スポーツ書籍に関する大きな賞を受けている。あとがきからそのくだりを引用する。(強調はtagomoris)

11月に、ダニエルと僕は良い知らせを受け取った。『シークレット・レース』が、スポーツ関連の優れた書籍に与えられる、イギリスの「ウィリアム・ヒル・スポーツブック・オブ・ザ・イヤー」の受賞作候補としてノミネートされたのだ。
(中略)
周りには過去の受賞作品の巨大なポスターがいくつも貼られていた (2000年のランスの自伝『ただマイヨジョーヌのためでなく』のポスターもあった)。
受賞を知らされ、僕たちは信じられないという思いで喜びに浸った。

著者は、あの、おそらく自転車レースに興味がなくても知っている人が多いだろうあの、ランス・アームストロングと同時代の選手だ。ランスと同じチームに所属したり、あるいは別のチームに所属しながら同じレースを走った選手だ。その選手が、勝つこと、負けること、勝てるようになること、それを全て失ったこと、について書いている。

シークレット・レース (小学館文庫)
タイラー ハミルトン ダニエル コイル
小学館 (2013-05-08)
売り上げランキング: 1,239

プロスポーツに大切なことのすべて。ひとに勝ちたいと思うこと。ひとに勝つためにやれることを何でもやること。

「やれること」って何?

ぼくたちが何かを達成しようとするとき、その道行きの途中、やれることは何でもやりたいと思う。そこで「やれることって何? どこまで?」という疑問を持つ瞬間がきっとある。
その疑問に恐れることなく正面から向きあう、そのための明かりに、この本がきっとなってくれると思っている。